診療科のご案内呼吸器外科
当科の概要
呼吸器外科は、現顧問の宮本好博が着任した1986年に開設されました。以来、肺癌をはじめとする呼吸器疾患全般の外科治療に取り組み、これまでに13000例以上(肺癌6500例以上)の手術症例を経験しています。
私たちは、高度で安全な外科治療を行うことをモットーにしていますが、一方で、慣習的に行なわれてきた無駄の多い診療行為を見直し、必要度の低いものはできるだけ省き、本当に必要なものを、なるべく患者さんの負担にならないよう、効率的に提供するために、以下のような点で努力しています。
① 迅速かつ合理的な治療計画により、早期退院・社会復帰を目指しています。種々の検査によって手術が必要と判断され、当科に紹介された肺癌の患者さんには、癌を抱えたまま手術の順番を待つ不安な日々をできるだけ短くするよう、原則として2週間以内に手術を行います。また、気胸・膿胸など迅速な処置が望ましい患者さんには、紹介当日あるいは3日以内に手術を行う様にしています。術後合併症防止のため、院内リハビリチームとともに、術後早期から積極的にリハビリテーションを行っています。
② 胸腔鏡を用いた低侵襲手術(VATS : Video-Assisted Thoracoscopic Surgery)を積極的に取り入れています。胸腔鏡手術は従来の呼吸器外科のイメージを一変させたといっても過言ではありません。人にはなかなか理解してもらえない術後の痛みに苦しむことは非常に少なくなりました。現在は全手術のほぼ90%を胸腔鏡で行っています。当科の特徴ともなっている、肺癌に対する胸腔鏡下肺葉切除術は、単一施設としては国内でもトップクラスの症例数を経験しています。
③ 術後のQOL(Quality of Life 生活の質)を重視し、根治性を損なわない範囲で肺機能を極力温存する術式を選択しています。具体的には、早期肺癌に対する肺区域切除の適用、気管支形成術や肺動脈形成術(後述)による肺葉の温存などです。
④ 原則としてすべての手術を無輸血で行ないます。大手術には輸血がつきものというわけではありません。同種血輸血は、既知および未知の病原体の感染の危険ばかりでなく、免疫能を低下させて、肺癌術後の再発率を高めることが知られています。
⑤ 総合病院の利点を生かして他科の協力を得つつ、進行癌に対する拡大手術や、リスクの高い合併症を持つ症例の手術にも積極的に取り組んでいます。
※初診の方は、紹介状をお持ち下さい。
スタッフ紹介
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顧 問 宮本 好博 ミヤモト ヨシヒロ
卒業年/昭和51年
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臨床研究部長
呼吸器センター
部長 植田 充宏 ウエダ ミツヒロ卒業年/昭和62年
日本外科学会認定医
日本胸部外科学会(呼外)認定医
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外科系診療部長 長井 信二郎 ナガイ シンジロウ
卒業年/平成6年
日本外科学会認定医・専門医・指導医
日本胸部外科学会(呼外)認定医
日本呼吸器外科学会専門医・胸腔鏡安全技術認定証
日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医・気管支鏡指導医
ダヴィンチサージカルシステム認定資格
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医 長 今西 直子 イマニシ ナオコ
卒業年/平成11年
日本外科学会認定医・専門医
日本呼吸器外科学会専門医
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医 師 上田 聡司 ウエダ サトシ
卒業年/平成21年
日本外科学会専門医
日本呼吸器外科学会専門医
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医 師 印藤 貴士 インドウ タカシ
卒業年/平成28年
日本専門医機構外科専門医
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呼吸器外科医師 相馬 逸人 ソウマ トシヒコ
卒業年/平成31年
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呼吸器外科医師 熊谷 遼介 クマガイ リョウスケ
卒業年/平成31年
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診療実績
手術総数 | 564 | 439 | 442 | 430 | 387 |
原発性肺癌 | 314 | 240 | 265 | 243 | 207 |
(うちVATS肺葉・区域切除) | (257) | (147) | (165) | (142) | (119) |
(ロボット肺葉・区域切除) | (43) | (59) | (58) | (56) | |
転移性肺腫瘍 | 43 | 28 | 19 | 31 | 26 |
悪性胸膜中皮腫 | 4 | 1 | 1 | 2 | 0 |
肺良性腫瘍 | 10 | 4 | 10 | 10 | 12 |
炎症性肺疾患 | 27 | 26 | 15 | 21 | 16 |
縦隔腫瘍 | 29 | 24 | 25 | 24 | 15 |
気胸 | 96 | 74 | 57 | 68 | 62 |
膿胸 | 27 | 23 | 27 | 20 | 29 |
VATS : 胸腔鏡下肺葉切除術・縦隔リンパ節郭清術
従来の肺癌の手術は、20cm前後の皮膚切開で筋肉を切断し、肋間を開胸器で開大(これが術後の痛みの大きな原因)しなければなりませんでしたが、胸腔鏡手術では、3~4cmの皮膚切開で筋肉をほとんど切断することなく、また、肋間を無理に開大することなく肺葉切除が可能です。弱点と考えられていたリンパ節郭清も、器械や技術の進歩に伴い、従来の開胸手術以上にきちんとできるようになっています。術後の痛みは軽度で、術後3日から7日(中央値6日)程度で退院することができ、不愉快な後遺症もほとんどありません。さらに、この方法で手術をした方が癌の再発率が低いという報告もあります。低侵襲ゆえに術後合併症の頻度も低く、開胸術に比べてより安全な術式であるとして、現在では国内のほとんどの施設で標準的な手術として受け入れられています。
進行癌で他臓器の合併切除・再建が必要な場合や、巨大腫瘍など一部の症例を除き、ほとんどの症例で胸腔鏡手術が可能です。ただし、胸腔鏡手術は、高解像度画像の恩恵を受けているとはいえ、作業空間や器具の動き・方向に物理的な制限を伴う、特殊な世界での手術であることから、胸腔鏡の手術環境に適した高度の技術を要します。また、手指による把持や触覚が使えないことによる限界もあります。特に、術中に出血が生じて制御困難な場合、触診でなければ病変の位置を確認できない場合、器具による操作で癌の根治性を損なう恐れがある場合などは、躊躇なく必要十分な程度の開胸手術に移行します。当科では、肺癌に対して4000例以上の胸腔鏡下肺葉切除術の経験がありますが、これまでに約3%の症例で開胸手術に移行しています。また、それらの症例を含め、胸腔鏡手術という方法ゆえの術中トラブルによる死亡例はありません。
現在、国内で行われている胸腔鏡手術(VATS)は、小さな開胸創からの直視下操作を主体として胸腔鏡を補助的に用いる方法と、すべての操作を胸腔鏡を通したモニター画像下で行う完全鏡視下手術(complete VATS)に大別されますが、当科では、2000年5月の開始以来、一貫して完全鏡視下手術(complete VATS)にこだわってトレーニングを積み、この方法に適した手術手技の開発、発展にとりくんできました。直視下手術は、開胸創が小さくなればなるほど手術の難易度は上がり、手技の精度は下がり、修得は困難になりますが、完全鏡視下手術では、術者と助手が共通のモニター画像を見ながら、細部にいたるまで協調して作業をすすめることにより、安全性と精度を確保することができます。この方法の確立により、当科では、通常の定型的な肺葉切除・リンパ節郭清のみならず、種々の区域切除術、両側同時手術、一側肺全摘術、一部の気管支形成術(後述)、過去に手術歴のある同側肺の手術など、高度な技術を要する様々な術式においても、胸腔鏡で従来の開胸術に劣らない精度の手術を可能にしてきました。当院で開発した胸腔鏡手術のアプローチと手技は、多くの施設の先生方の賛同を得て「姫路式VATS」と呼ばれ、広く普及しています。
図 VATS:完全鏡視下肺葉切除術の様子
(宮本好博 編集 完全鏡視下肺葉切除術シリーズ 右上葉切除術 金芳堂)
気管気管支形成術・肺動脈形成術
肺癌の手術では、原則として腫瘍の存在する肺葉(右に3つ、左に2つある肺の「袋」)をまるごと切除しますが、各肺葉に枝分かれする太い気管支や血管付近にまで病変が及んでいる場合、根治性をめざして肺葉切除を行おうとすれば、隣接する肺葉を犠牲にせざるを得ません。肺は再生しませんので、切除量が大きくなればなるほど、手術後のQOL(生活の質)が低下します。しかし、このような場合に、病変の及んでいる気管支や血管(主として肺動脈)をいったん切り離して、後で健康な部分をつなぎ合わせることにより、隣接する肺葉を温存することができます。これを気管気管支形成術(あるいは肺動脈形成術)と呼び、当科では従来からこの手技を積極的に用い、手術で失われる肺の大きさを最小限にする努力をしてきました。
切除の難しい気管分岐部の癌に対しても、できるだけ一側肺全摘を避け、健康な肺を温存できるよう、新しい手術方法も開発しました(二連銃変法による気管分岐部再建術)。さらに必要に応じ、肺葉よりも小さい肺区域レベルでの気管支形成術も行ないます。開設以来2021年までに当科で行った気管気管支形成術は451例、そのうち肺癌に対するものは391例でした。
図 左肺上葉ダブルスリーブ切除での気管支・肺動脈形成術
図 二連銃変法による気管分岐部再建術
(人見滋樹 監修 和田洋巳・池修 編集 呼吸器外科手術の手技と方法 金芳堂 より)
ロボット支援下肺葉切除術・縦隔腫瘍摘出術
2019年の肺癌に対するロボット支援下手術の保険適用をうけ、当科でも2020年よりダビンチXiを用いたロボット支援下手術を開始しました。ダビンチは、高精細3D画像による拡大視と、手ぶれのない多関節器具を用いた精密な作業が特徴で、呼吸器外科領域でも、狭く深い領域でのリンパ節郭清や、重要構造物が集まる縦隔の手術などで威力を発揮します。当科では、これまで培ってきた胸腔鏡手術のノウハウを生かしつつ、ロボット支援下手術の恩恵を患者さんに還元すべく、とりくんでいます。
図 ダビンチ手術の様子
新専門医制度における外科専門医・呼吸器外科専門医修練について
2018年4月より、日本専門医機構の主導のもと、新たな専門医制度による専攻医の専門研修が開始され、当院でも同機構の認定をうけた外科専門医プログラムのもと、外科系専攻医をうけいれ、研修を行っています。また、2021年4月からは、外科専門医を取得したあとのサブスペシャリティ領域(消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科、乳腺外科、内分泌外科)の専門医を目指す専門研修も開始されています。
当科は、消化器外科、乳腺外科とともに、「兵庫京大外科専門研修プログラム」の連携施設として、「外科専門医」を目指す専門研修を行っています。また、外科専門医取得後のサブスペシャリティ領域における「呼吸器外科専門医」専門研修の基幹施設としての認定をうけており、2021年4月より第1期生を採用し専門研修を開始しました。
姫路医療センター 外科専攻医(新専門医制度)募集
令和5年度採用 兵庫京大外科専門研修プログラム 募集要項
外科専門研修(専攻医)募集
※外科専門医取得後の「呼吸器外科専門医」専門研修をお考えの方は、下記連絡先まで直接お問い合わせ下さい。
手術・診療見学について
当科では、医歯薬学部学生、研修医、看護師、パラメディカルスタッフから専門医に至るまで、幅広い職種の方を対象に、手術・病棟診療などの見学を随時受け入れています。これまでにも、こうした見学の機会を契機に、医局や大学の垣根を越えて、各地から広く人材を受け入れてきており、2010年以降、後期研修を含めてのべ14名の若手呼吸器外科医が、当科で修練を行いました。当院・当科の手術・診療に興味をお持ちのかたは、是非お気軽にお問い合わせください。
問い合わせ先:413-jy@mail.hosp.go.jp
「病院見学のご案内」https://himeji.hosp.go.jp/kengaku.html